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. 『球体が降る夜』  今夜は球体が降る夜になりそうだ。 空気が澄んでいてひんやりとしているし、鼻の奥がツンとする。 なによりも星が近くに感じられる。 きっと今夜だ。 わたしはこっそり家を出て、川の方へと向かった。 わたしの暮らす町では年に一度、秋が定着してきた頃に、たくさんの球体が降る。  球体は手のひらに収まるくらいの大きさで、ゼリーのような適度な重量感と柔軟性がある。 透明度が高く、空にかざすと星空が透けて、まるで宇宙の一部を与えられたかのような錯覚に陥る。  球体が降る夜は、会いたい人に会うことができる特別な夜。 ある人は恋人に、ある人は離れて暮らす家族に、またある人はもう会えなくなってしまった人に、会いたいと願って人々はここに集まる。 わたしは一年後にはきっと会えなくなるであろうあなたに、会いにきた。 あなたが家で眠っている隙に、来年の分まで会って話をしておこうと思った。  町の人たちはこの球体を「涙玉」と呼ぶ。 わたしは目の前に降ってきた「涙玉」を両手で受け止めた。 心がすうっと広がる感覚。 心細さが薄まり、さまざまな後悔が希釈されてゆく。 ただただ、大切なあなたに思いを馳せる。 どのくらいの時間そうしていただろうか。 「涙玉」は少しずつ溶け出し、指のあいだから滴りはじめた。 そろそろ川から空へ戻す時間だ。 わたしはもう大丈夫。 帰ろう、あなたの待つ家へ。  というような言い伝えがあり、今回開発したゼリーには、「namidadama〜降る夜は」と名付けました。 球状の透明ゼリーの中に星形のレモン餡を散りばめ、パッケージは星空をイメージし、商品名の由来となる短い物語を添えました。 味はほっとする甘さとぷるんとした食感、レモン餡は少し硬めに仕上げ、ほのかな酸味とともにアクセントになっています。 ご試食をお願いします。  「namidadama〜降る夜は」あなたの大切な人と、大切な時間を過ごしてほしい、そんな願いを込めて企画、開発しました。 以上です。  無事、プレゼンが終わった。 商品化も決定した。 一年前から構想を練って、やっと実現した企画だ。 わたしは嬉しくて急いで家路につく。 「ただいま」 彼が微笑みながら迎えてくれた。 わたしは彼の遺影に「namidadama〜降る夜は」を供え、手を合わせた。 これで、いつでもあなたに会える。 . . . #球体が降る夜#秋#星空#ゼリー#球体#保護カバー#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#ショートショート#フィクション#詩#読書#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshots#minimaltake#minimal#minimalism#loves_minimaIism

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『球体が降る夜』

今夜は球体が降る夜になりそうだ。
空気が澄んでいてひんやりとしているし、鼻の奥がツンとする。
なによりも星が近くに感じられる。
きっと今夜だ。
わたしはこっそり家を出て、川の方へと向かった。
わたしの暮らす町では年に一度、秋が定着してきた頃に、たくさんの球体が降る。

球体は手のひらに収まるくらいの大きさで、ゼリーのような適度な重量感と柔軟性がある。
透明度が高く、空にかざすと星空が透けて、まるで宇宙の一部を与えられたかのような錯覚に陥る。

球体が降る夜は、会いたい人に会うことができる特別な夜。
ある人は恋人に、ある人は離れて暮らす家族に、またある人はもう会えなくなってしまった人に、会いたいと願って人々はここに集まる。
わたしは一年後にはきっと会えなくなるであろうあなたに、会いにきた。
あなたが家で眠っている隙に、来年の分まで会って話をしておこうと思った。

町の人たちはこの球体を「涙玉」と呼ぶ。
わたしは目の前に降ってきた「涙玉」を両手で受け止めた。
心がすうっと広がる感覚。
心細さが薄まり、さまざまな後悔が希釈されてゆく。
ただただ、大切なあなたに思いを馳せる。
どのくらいの時間そうしていただろうか。
「涙玉」は少しずつ溶け出し、指のあいだから滴りはじめた。
そろそろ川から空へ戻す時間だ。
わたしはもう大丈夫。
帰ろう、あなたの待つ家へ。

というような言い伝えがあり、今回開発したゼリーには、「namidadama〜降る夜は」と名付けました。
球状の透明ゼリーの中に星形のレモン餡を散りばめ、パッケージは星空をイメージし、商品名の由来となる短い物語を添えました。
味はほっとする甘さとぷるんとした食感、レモン餡は少し硬めに仕上げ、ほのかな酸味とともにアクセントになっています。
ご試食をお願いします。

「namidadama〜降る夜は」あなたの大切な人と、大切な時間を過ごしてほしい、そんな願いを込めて企画、開発しました。
以上です。

無事、プレゼンが終わった。
商品化も決定した。
一年前から構想を練って、やっと実現した企画だ。
わたしは嬉しくて急いで家路につく。
「ただいま」
彼が微笑みながら迎えてくれた。
わたしは彼の遺影に「namidadama〜降る夜は」を供え、手を合わせた。

これで、いつでもあなたに会える。
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#球体が降る夜#秋#星空#ゼリー#球体#保護カバー#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#ショートショート#フィクション#詩#読書#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshots#minimaltake#minimal#minimalism#loves_minimaIism
269 12 39 days ago

. 『道に迷う』  大学の帰り道、僕は道に迷った。 最寄り駅までの歩き慣れた道なのに。 車通りの多い道から右折。次の角を左に入る。 その途端だった。 いつもと違う空気感。 建物は同じ。 なのに喧騒が消え、微かにクラシック音楽が聞こえる。 振り返っても、僕以外誰もいない。  前に向き直ると、一人の女性が立っていた。 あなたは誰ですか?と問われる。 僕は意外に冷静だった。 自分の名前を答えた。 あなたは何者ですか?とまた問われる。 難しい質問ですね。僕は僕という者です。 あなたが面白いまたは好きだと思うことを頭の中で想像してください。 それは一人でも楽しめますか? それとも他者に依存しないと楽しめませんか? 前者なら右の道へ、後者なら左の道へ、お進みください。  僕は右の道を選んだ。 すると目の前にさっきの女性がいた。 あなたはその面白いまたは好きだと思うことを仕事にしたいですか? それともそれを実現させるためのお金を稼ぎたいですか? 前者なら右の道へ、後者なら左の道へ、お進みください。 僕にはまだわかりません。 では中央の道を抜けてお帰りください。 よく考えてからまたいらしてください。  次の瞬間、場面が変わった。 先輩が僕のゴーグルを外したのだ。 代わりに僕のメガネを手にのせてくれた。 そうだ、ここは研究室だった。 自己分析ツールの操作試験が終わったのだ。 僕が参加しているゼミでは、自己分析ソフトウェアとデバイスとしての軽量ゴーグルを研究開発している。 まだ一年の僕は、実験対象として参加している程度だけれど。 仮想空間はかなりリアルだった。 ゴーグルも軽量で、かけていることを忘れてしまう。 僕は将来、何がしたいのかな?  今日の授業は終わった。 僕は仮想空間で擬似体験した道を、同じように歩き、最寄り駅へ向かった。 そう、この十字路で僕は迷ったんだ。 今日はまわり道をして帰ろうと思い立ち、いつもとは逆の右の道を選んだ。 その途端、喧騒が消え、微かにジャズのリズムが聞こえる。 えっ。 僕は音のする方に導かれて、狭い路地に迷い込んだ。 アコースティックギターの甘い音色が、突き当たりの小さな店から聞こえてくる。 少し開いている扉から、鼻をくすぐるコーヒーの香り。 あまり広くない店の壁は、一面、本棚。 ようこそ。 奥から店主らしき女性が現れた。 あなたの好きなものを用意してお待ちしておりました。 どうして先輩が? 僕はゴーグルを外そうとしたが、手に触れたのは自分のメガネだった。  でも次の瞬間、場面が変わった。 先輩が僕のメガネを外して、ちょっと申し訳なさそうな、でもすぐに嬉しそうな顔をしてウィンクした。 「君の好きなものは見つかったかな」 そこは研究室だった。 . . . #道に迷う#僕は道に迷った#自己分析#研究室#階段#壁#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#ショートショート#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真 #wall#staircase#monochrome#monotone#bnw#bnwphotography#minimalphotography#minimalshots#minimaltake#photo_minimal_#minimal#minimalism

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『道に迷う』

大学の帰り道、僕は道に迷った。
最寄り駅までの歩き慣れた道なのに。
車通りの多い道から右折。次の角を左に入る。
その途端だった。
いつもと違う空気感。
建物は同じ。
なのに喧騒が消え、微かにクラシック音楽が聞こえる。
振り返っても、僕以外誰もいない。

前に向き直ると、一人の女性が立っていた。
あなたは誰ですか?と問われる。
僕は意外に冷静だった。
自分の名前を答えた。
あなたは何者ですか?とまた問われる。
難しい質問ですね。僕は僕という者です。
あなたが面白いまたは好きだと思うことを頭の中で想像してください。
それは一人でも楽しめますか?
それとも他者に依存しないと楽しめませんか?
前者なら右の道へ、後者なら左の道へ、お進みください。

僕は右の道を選んだ。
すると目の前にさっきの女性がいた。
あなたはその面白いまたは好きだと思うことを仕事にしたいですか?
それともそれを実現させるためのお金を稼ぎたいですか?
前者なら右の道へ、後者なら左の道へ、お進みください。
僕にはまだわかりません。
では中央の道を抜けてお帰りください。
よく考えてからまたいらしてください。

次の瞬間、場面が変わった。
先輩が僕のゴーグルを外したのだ。
代わりに僕のメガネを手にのせてくれた。
そうだ、ここは研究室だった。
自己分析ツールの操作試験が終わったのだ。
僕が参加しているゼミでは、自己分析ソフトウェアとデバイスとしての軽量ゴーグルを研究開発している。
まだ一年の僕は、実験対象として参加している程度だけれど。
仮想空間はかなりリアルだった。
ゴーグルも軽量で、かけていることを忘れてしまう。
僕は将来、何がしたいのかな?

今日の授業は終わった。
僕は仮想空間で擬似体験した道を、同じように歩き、最寄り駅へ向かった。
そう、この十字路で僕は迷ったんだ。
今日はまわり道をして帰ろうと思い立ち、いつもとは逆の右の道を選んだ。
その途端、喧騒が消え、微かにジャズのリズムが聞こえる。
えっ。

僕は音のする方に導かれて、狭い路地に迷い込んだ。
アコースティックギターの甘い音色が、突き当たりの小さな店から聞こえてくる。
少し開いている扉から、鼻をくすぐるコーヒーの香り。
あまり広くない店の壁は、一面、本棚。
ようこそ。
奥から店主らしき女性が現れた。
あなたの好きなものを用意してお待ちしておりました。
どうして先輩が?
僕はゴーグルを外そうとしたが、手に触れたのは自分のメガネだった。

でも次の瞬間、場面が変わった。
先輩が僕のメガネを外して、ちょっと申し訳なさそうな、でもすぐに嬉しそうな顔をしてウィンクした。
「君の好きなものは見つかったかな」
そこは研究室だった。
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278 6 46 days ago

. 『彼の趣味と私の見立て』  僕の彼女を紹介します。 もう何度聞いたかわからないこの台詞。 それを微笑みながら見守る私。  彼女は万人に愛される要素があって、見た目はこの通りスラリとしていてオシャレなんだ。 周りにいくら振り回されても文句一つ言わず、健気に身を捧げてなすべきことをなす姿勢は、本当に見習いたいと思っている。 それに、万が一ミスをしても素早く頭を回転させて、さささっと消し去って、何もなかったかのように場を収める能力は、右に出るものはいないよ。 だけど、芯は繊細で、誰かに支えてもらわなければ生きていけない脆さもあって、そんな相反する面を持ち合わせているところも魅力的なんだよね。 ただ、一つだけ頑固な点があって、もう嫌だと思うと、いくら背中を押してもすぐ引っ込んでしまって、言うことを聞かなくなるんだ。 でも僕は、そんな部分も含めて彼女の全部が好きだし、一生の宝物です。 どうぞよろしくお願いします。  新しく仲間入りした文房具に向かって、毎回、愛用のシャープペンシルの紹介をする彼はどうなのかしらと思うけれど、それが彼のかわいいところでもあるのよね。 彼は大の文房具好き。 家には彼のお気に入りがたくさんあって、その中でも今紹介したシャープペンシルは一番の愛用品。 私はそれに似ているらしいの。 君は僕の大好きなシャープペンシルに似ています、と告白された時はさすがに驚いたけれど、それは彼にとって最上級の言葉だったと今は理解できる。  それで私も、彼はどんな文房具に似ているかを考えるようになって、最終的な私の見立ては、黒ボールペン。 事務用品文房具部門を代表するような、シンプルなペンね。 見た目はちょっと地味で冴えない、インクの芯が見えるタイプの、あれ。 飽きのこないデザインだし、書き味は良いし、いざという時には絶対に必要で、外からの力によって自分を見失いそうになったり、流されそうになったりもするけれど、決して消えることなく安心感がある、とでもいうのかな。 とにかく私の心強い味方。 最近、彼にあの伸び縮みするカールコードでもつけておこうかしらと、本気で思ったりもしている。 そうすれば、なくさずにすむからね。 . . . #駐車場#精算機#屋根#青#空#上を見る#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#ショートショート#詩#読書#彼の趣味と私の見立て#愛用品#カールコード#look_up#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshots#minimaltake#minimal#minimalism

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『彼の趣味と私の見立て』

僕の彼女を紹介します。
もう何度聞いたかわからないこの台詞。
それを微笑みながら見守る私。

彼女は万人に愛される要素があって、見た目はこの通りスラリとしていてオシャレなんだ。
周りにいくら振り回されても文句一つ言わず、健気に身を捧げてなすべきことをなす姿勢は、本当に見習いたいと思っている。
それに、万が一ミスをしても素早く頭を回転させて、さささっと消し去って、何もなかったかのように場を収める能力は、右に出るものはいないよ。
だけど、芯は繊細で、誰かに支えてもらわなければ生きていけない脆さもあって、そんな相反する面を持ち合わせているところも魅力的なんだよね。
ただ、一つだけ頑固な点があって、もう嫌だと思うと、いくら背中を押してもすぐ引っ込んでしまって、言うことを聞かなくなるんだ。
でも僕は、そんな部分も含めて彼女の全部が好きだし、一生の宝物です。
どうぞよろしくお願いします。

新しく仲間入りした文房具に向かって、毎回、愛用のシャープペンシルの紹介をする彼はどうなのかしらと思うけれど、それが彼のかわいいところでもあるのよね。
彼は大の文房具好き。
家には彼のお気に入りがたくさんあって、その中でも今紹介したシャープペンシルは一番の愛用品。
私はそれに似ているらしいの。
君は僕の大好きなシャープペンシルに似ています、と告白された時はさすがに驚いたけれど、それは彼にとって最上級の言葉だったと今は理解できる。

それで私も、彼はどんな文房具に似ているかを考えるようになって、最終的な私の見立ては、黒ボールペン。
事務用品文房具部門を代表するような、シンプルなペンね。
見た目はちょっと地味で冴えない、インクの芯が見えるタイプの、あれ。
飽きのこないデザインだし、書き味は良いし、いざという時には絶対に必要で、外からの力によって自分を見失いそうになったり、流されそうになったりもするけれど、決して消えることなく安心感がある、とでもいうのかな。
とにかく私の心強い味方。
最近、彼にあの伸び縮みするカールコードでもつけておこうかしらと、本気で思ったりもしている。
そうすれば、なくさずにすむからね。
.
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#駐車場#精算機#屋根#青#空#上を見る#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#ショートショート#詩#読書#彼の趣味と私の見立て#愛用品#カールコード#look_up#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshots#minimaltake#minimal#minimalism
289 6 52 days ago

. 『淡い空間の共有』  雨上がりの晴れた空が好きな君 そんな空みたいに 僕の前ではよく泣いてよく笑う  どれだけ遠くにいても どれだけ離れていても 僕らは同じ空間を共有している  でも僕は 君と会えないあいだ 君を想うあまり もう空間と同化し始めたみたいなんだ ほら 指先が空間に溶け込んで淡い藍を放っている 内臓は空間に溶け出して淡い橙を放っている  こうやって少しずつ同化して 淡い赤や黄、淡い青や紫と引き換えに 僕自身は希釈しすぎた液体みたいに薄まって 空間と化して 実体を失っていくような気がする  でも 雨上がりの空に 湿った空気と光の力を借りて 君と共有する空間に 色を放つよ  君の好きな雨上がりの空に 淡い七つの色を放つよ  君が空間と同化するまでのあいだ そうやって ずっと待っているよ だからゆっくりおいで . . . #淡い空間の共有#雨上がりの晴れた空#同化#仮囲い#安全鋼板#工事現場#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真 #temporaryconstructionfence#monochrome#monotone#bnw#bnwphotography#minimalphotography#minimalshots#minimaltake#photo_minimal_#minimal#minimalism

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『淡い空間の共有』

雨上がりの晴れた空が好きな君
そんな空みたいに
僕の前ではよく泣いてよく笑う

どれだけ遠くにいても
どれだけ離れていても
僕らは同じ空間を共有している

でも僕は
君と会えないあいだ
君を想うあまり
もう空間と同化し始めたみたいなんだ
ほら
指先が空間に溶け込んで淡い藍を放っている
内臓は空間に溶け出して淡い橙を放っている

こうやって少しずつ同化して
淡い赤や黄、淡い青や紫と引き換えに
僕自身は希釈しすぎた液体みたいに薄まって
空間と化して
実体を失っていくような気がする

でも
雨上がりの空に
湿った空気と光の力を借りて
君と共有する空間に
色を放つよ

君の好きな雨上がりの空に
淡い七つの色を放つよ

君が空間と同化するまでのあいだ
そうやって
ずっと待っているよ
だからゆっくりおいで
.
.
.
#淡い空間の共有#雨上がりの晴れた空#同化#仮囲い#安全鋼板#工事現場#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真
#temporaryconstructionfence#monochrome#monotone#bnw#bnwphotography#minimalphotography#minimalshots#minimaltake#photo_minimal_#minimal#minimalism
318 4 59 days ago

. 『記憶の箱』  物覚えが悪くなった。 そろそろ脳の記憶領域が容量不足かもしれない。 35歳のときの僕は「記憶バンク」の利用を決意した。  「記憶バンク」とは、その名の通り「記憶」が預けられる銀行で、メモリ内蔵の「記憶の箱」と呼ばれる小さな箱に、自分の記憶を入れて預けるというものだ。  預けられる記憶は、脳の中でも容量を多く消費するといわれる「思い出に付随する感情」に限られる。 蓄積した知識はなくならず、思考力も低下せず、性格も変化することはないので、これまで通りの生活ができると説明があった。  記憶の取り出し作業は簡単で、専用のケーブルで耳と箱とをつなぎ、数分で完了する。  規定により、記憶は古いものから順にしか預けられず、初めてなら0歳からの記憶を1年単位で任意の期間預けることになる。仕組みは定期預金に似ている。 また任意の期間が終了しても引き出さない場合、80歳に達した日に強制的に返還される。  運用も可能だ。運用というのは、他人に自分の記憶を貸し出すことを指し、主に記憶を上書きしたい人に使われると聞いた。  僕は数回に分けて、最終的に15年分を運用付きで預けた。 空いた記憶領域を利用して、たくさんのことを勉強して学んだ。 仕事ではキャリアを積み、趣味にも没頭することができた。 不便さは何も感じなかった。  結局、預けたまま80歳となり、先週15年分の記憶が「記憶の箱」とともに戻ってきた。 歳を重ねると子どもの頃の記憶が鮮明になると聞いていたが、こういうことだったのかと実感している。 同時に、僕はこんなにも恵まれた思い出を持っていたのかと気づかされた。 また記憶の運用によって、この「思い出に付随する感情」が誰かの役に立てたかもしれないと考えると、僕の人生も悪くないなと思う。  もしかすると預けたことで目に見えない財産が増えたかもしれない。 それなら有意義な運用だったと言える。 一方で、最近のことはなかなか思い出せない。 記憶が返還されて容量オーバーなのだろう。  「記憶の箱」をときどき手に取り、ぼんやりと眺めている。 今ではただの空っぽの箱だ。 でも、この箱には多くの思い出が詰まっているような気がする。 . . . #記憶の箱#記憶バンク#思い出に付随する感情#運用#この蓋はなんだろう?#地面#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#lookdown#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshots#minimaltake#minimal#minimalism

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『記憶の箱』

物覚えが悪くなった。
そろそろ脳の記憶領域が容量不足かもしれない。
35歳のときの僕は「記憶バンク」の利用を決意した。

「記憶バンク」とは、その名の通り「記憶」が預けられる銀行で、メモリ内蔵の「記憶の箱」と呼ばれる小さな箱に、自分の記憶を入れて預けるというものだ。

預けられる記憶は、脳の中でも容量を多く消費するといわれる「思い出に付随する感情」に限られる。
蓄積した知識はなくならず、思考力も低下せず、性格も変化することはないので、これまで通りの生活ができると説明があった。

記憶の取り出し作業は簡単で、専用のケーブルで耳と箱とをつなぎ、数分で完了する。

規定により、記憶は古いものから順にしか預けられず、初めてなら0歳からの記憶を1年単位で任意の期間預けることになる。仕組みは定期預金に似ている。
また任意の期間が終了しても引き出さない場合、80歳に達した日に強制的に返還される。

運用も可能だ。運用というのは、他人に自分の記憶を貸し出すことを指し、主に記憶を上書きしたい人に使われると聞いた。

僕は数回に分けて、最終的に15年分を運用付きで預けた。
空いた記憶領域を利用して、たくさんのことを勉強して学んだ。
仕事ではキャリアを積み、趣味にも没頭することができた。
不便さは何も感じなかった。

結局、預けたまま80歳となり、先週15年分の記憶が「記憶の箱」とともに戻ってきた。
歳を重ねると子どもの頃の記憶が鮮明になると聞いていたが、こういうことだったのかと実感している。
同時に、僕はこんなにも恵まれた思い出を持っていたのかと気づかされた。
また記憶の運用によって、この「思い出に付随する感情」が誰かの役に立てたかもしれないと考えると、僕の人生も悪くないなと思う。

もしかすると預けたことで目に見えない財産が増えたかもしれない。
それなら有意義な運用だったと言える。
一方で、最近のことはなかなか思い出せない。
記憶が返還されて容量オーバーなのだろう。

「記憶の箱」をときどき手に取り、ぼんやりと眺めている。
今ではただの空っぽの箱だ。
でも、この箱には多くの思い出が詰まっているような気がする。
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#記憶の箱#記憶バンク#思い出に付随する感情#運用#この蓋はなんだろう?#地面#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#lookdown#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshots#minimaltake#minimal#minimalism
393 22 2 months ago

. 『先生、ここは三次元ですか』  本日のテーマは「三次元化」について。 まずは定義の確認から。 三次元化とは、二次元から三次元へ変化することである。  三次元化の共通要素として「自らの関与」がある。 関与によって、それまで二次元だったものが三次元化する。 言い換えれば、二次元の事象に関して自分は傍観者であり、何らかの形で関わり、当事者になることで三次元へシフトする、と言えるだろう。  例えば、その窓から見える景色は、二次元と三次元が混在していると容易に推測できる。 なぜなら、景色の中に自分を置き、五感を使って感じ取ることでその景色は初めて三次元化するからだ。 従って、同じ景色を見ているようでも、過去に関与したことがある人とない人では、次元が違うという現象が起こり得る訳だ。  「先生、質問があります。人間関係にも次元はありますか?」  面白い質問だ。人間関係も同様だ。 関係が希薄なときは二次元的関係と言えるだろう。 そして相手に関心を寄せることによって三次元の関係に変化する。 では早速、実験に移るとしよう。 . . 「大丈夫ですか?わかりますか?」 「今どこにいるかわかりますか?私が見えますか?」 「目の前がぼんやりと白っぽく、眩しいような…」 「ほかに感じることは?」 「気持ちが悪いです。実験中に僕は…先生、ここは三次元ですか?」 「実験?三次元?またか。ここは病院ですよ」 「あぁ、目が回る…」  「大丈夫ですか?横になったままでいいですよ。先生、これを見てください。患者さんの学生証なんですけど、また同じ大学の学生です。今月に入って三人目ですよ。どうして突然、診察室のベッドに現れるんでしょう。とりあえずこのまま入院させますか?」 「ああ頼むよ」 「ところで先生、彼らは本当に三次元から来たんでしょうか?三次元とはどんな世界なんでしょうかね」 . . . #先生ここは三次元ですか#二次元#三次元#三次元化#テーブル脚#椅子の脚#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真 #flooring#tablelegs#chairlegs#monochrome#monotone#bnw#bnwphotography#minimalphotography#minimalshots#minimaltake#photo_minimal_#minimal#minimalism

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『先生、ここは三次元ですか』

本日のテーマは「三次元化」について。
まずは定義の確認から。
三次元化とは、二次元から三次元へ変化することである。

三次元化の共通要素として「自らの関与」がある。
関与によって、それまで二次元だったものが三次元化する。
言い換えれば、二次元の事象に関して自分は傍観者であり、何らかの形で関わり、当事者になることで三次元へシフトする、と言えるだろう。

例えば、その窓から見える景色は、二次元と三次元が混在していると容易に推測できる。
なぜなら、景色の中に自分を置き、五感を使って感じ取ることでその景色は初めて三次元化するからだ。
従って、同じ景色を見ているようでも、過去に関与したことがある人とない人では、次元が違うという現象が起こり得る訳だ。

「先生、質問があります。人間関係にも次元はありますか?」

面白い質問だ。人間関係も同様だ。
関係が希薄なときは二次元的関係と言えるだろう。
そして相手に関心を寄せることによって三次元の関係に変化する。
では早速、実験に移るとしよう。
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「大丈夫ですか?わかりますか?」
「今どこにいるかわかりますか?私が見えますか?」
「目の前がぼんやりと白っぽく、眩しいような…」
「ほかに感じることは?」
「気持ちが悪いです。実験中に僕は…先生、ここは三次元ですか?」
「実験?三次元?またか。ここは病院ですよ」
「あぁ、目が回る…」

「大丈夫ですか?横になったままでいいですよ。先生、これを見てください。患者さんの学生証なんですけど、また同じ大学の学生です。今月に入って三人目ですよ。どうして突然、診察室のベッドに現れるんでしょう。とりあえずこのまま入院させますか?」
「ああ頼むよ」
「ところで先生、彼らは本当に三次元から来たんでしょうか?三次元とはどんな世界なんでしょうかね」
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#先生ここは三次元ですか#二次元#三次元#三次元化#テーブル脚#椅子の脚#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真
#flooring#tablelegs#chairlegs#monochrome#monotone#bnw#bnwphotography#minimalphotography#minimalshots#minimaltake#photo_minimal_#minimal#minimalism
290 4 2 months ago

. 『睡蓮の憧憬』  夏が終わりました。 秋が始まりました。  終わらなければ始まらないことがあります。 終わることは悲しいことではありません。 またいつか巡ってくるからです。  あの睡蓮は、花弁の先で静かに呼吸していました。 自らの息遣いが振動となって、水に伝わらないようにするためです。 心と水は、互いを映し出す鏡のような存在だと聞きました。 心の動揺は水面を揺らし、水面の綾は心を揺らします。  季節は移ろい、秋が終われば冬が始まります。 睡蓮が心の濁りを落とし、静かに眠るために冬は訪れるのかもしれません。 心の濁りは澱となって池の奥底に沈み、眠らない水が濁りを浄化します。  そうして季節は巡り、あの睡蓮はまた湧水のような澄んだ心を咲かせるのです。 その貴く凛とした姿は、同じ睡蓮である私の憧れなのです。  一輪で佇む強くて美しいあの睡蓮に、私はまた巡り会いたいのです。 . . . #睡蓮の憧憬#睡蓮#心#水#四季#巡る#水面#池#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#青#巡り会いたい#waterlily#pond#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshot#minimaltake#minimal#minimalism

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『睡蓮の憧憬』

夏が終わりました。
秋が始まりました。

終わらなければ始まらないことがあります。
終わることは悲しいことではありません。
またいつか巡ってくるからです。

あの睡蓮は、花弁の先で静かに呼吸していました。
自らの息遣いが振動となって、水に伝わらないようにするためです。
心と水は、互いを映し出す鏡のような存在だと聞きました。
心の動揺は水面を揺らし、水面の綾は心を揺らします。

季節は移ろい、秋が終われば冬が始まります。
睡蓮が心の濁りを落とし、静かに眠るために冬は訪れるのかもしれません。
心の濁りは澱となって池の奥底に沈み、眠らない水が濁りを浄化します。

そうして季節は巡り、あの睡蓮はまた湧水のような澄んだ心を咲かせるのです。
その貴く凛とした姿は、同じ睡蓮である私の憧れなのです。

一輪で佇む強くて美しいあの睡蓮に、私はまた巡り会いたいのです。
.
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#睡蓮の憧憬#睡蓮#心#水#四季#巡る#水面#池#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#青#巡り会いたい#waterlily#pond#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshot#minimaltake#minimal#minimalism
394 22 2 months ago

. 『数える』  君は「数える」のが好きだ。  数える対象にこだわりはなく、 先週の場合だと、 月曜日は横断歩道ですれ違った人の数、 火曜日は高層ビルの窓の数、 水曜日は傘を鳴らす雨音(これはあっという間に数えられなくなった)、 木曜日は自動販売機の飲み物の種類、 金曜日は散歩中の犬の歩数、など。  土、日は僕の言動がターゲットになることが多く、付き合い始めた頃は戸惑ったが、今ではすっかり日常化している。  数え方にはルールがある。 素早く目を動かして数えたり、口に出して数えたり。 いずれにしても必ず「0」と言ってから数え始める。 たとえば、 「レイ、そう言えばね…」 「レイ、美味しいね。…ジュウナナ、ジュウハチ」という風に。 ちょっと紛らわしい。  数える理由については、前にこう言っていた。 「好きだから。しいて言うなら、抽象的な数字を使って具体的な何かを数える行為の、不思議な感じが楽しい」と。 たしかに、数えているときの君はいつも楽しそうだ。  数える上で悩みもあるらしい。 何をもって「1」とするか、という定義付けだ。 たとえば、犬の歩数は人間の倍になるのかなど。 細かい事を考えるのは僕の方が得意だという理由から、いつの間にか担当することになっていた。 君に定義付けが的確だと褒められたりして…悪い気はしない。  「レイ。何ニヤニヤしてるの?」 「いや、今日はどこ行こうかと…」  「人は嘘をつくと瞬きが多くなるのよ、レイ」 「そのしあわせそうなニヤニヤ顔も数えられたら良いのに。レイ、ニヤニヤ顔の定義も考えておいて」 「はい。はい」  「レイ、イチ、ニ!」 ふくれっ面をして僕を睨んでいる。  「あ、『はい』は1回…ですね」 . . . #数える#引き戸#古い建物#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真#ニヤニヤ顔の定義#slidingdoor#monochrome#monotone#bnw#bnwphotography#minimalphotography#minimalshot#minimaltake#photo_minimal#minimal#minimalism

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『数える』

君は「数える」のが好きだ。

数える対象にこだわりはなく、
先週の場合だと、
月曜日は横断歩道ですれ違った人の数、
火曜日は高層ビルの窓の数、
水曜日は傘を鳴らす雨音(これはあっという間に数えられなくなった)、
木曜日は自動販売機の飲み物の種類、
金曜日は散歩中の犬の歩数、など。

土、日は僕の言動がターゲットになることが多く、付き合い始めた頃は戸惑ったが、今ではすっかり日常化している。

数え方にはルールがある。
素早く目を動かして数えたり、口に出して数えたり。
いずれにしても必ず「0」と言ってから数え始める。
たとえば、
「レイ、そう言えばね…」
「レイ、美味しいね。…ジュウナナ、ジュウハチ」という風に。
ちょっと紛らわしい。

数える理由については、前にこう言っていた。
「好きだから。しいて言うなら、抽象的な数字を使って具体的な何かを数える行為の、不思議な感じが楽しい」と。
たしかに、数えているときの君はいつも楽しそうだ。

数える上で悩みもあるらしい。
何をもって「1」とするか、という定義付けだ。
たとえば、犬の歩数は人間の倍になるのかなど。
細かい事を考えるのは僕の方が得意だという理由から、いつの間にか担当することになっていた。
君に定義付けが的確だと褒められたりして…悪い気はしない。

「レイ。何ニヤニヤしてるの?」
「いや、今日はどこ行こうかと…」

「人は嘘をつくと瞬きが多くなるのよ、レイ」
「そのしあわせそうなニヤニヤ顔も数えられたら良いのに。レイ、ニヤニヤ顔の定義も考えておいて」
「はい。はい」

「レイ、イチ、ニ!」
ふくれっ面をして僕を睨んでいる。

「あ、『はい』は1回…ですね」
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#数える#引き戸#古い建物#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真#ニヤニヤ顔の定義#slidingdoor#monochrome#monotone#bnw#bnwphotography#minimalphotography#minimalshot#minimaltake#photo_minimal#minimal#minimalism
366 8 2 months ago

. 『イチとゼロの創造力』  イチを確立させるためにはゼロの存在が欠かせない。 イチはお互いの絶対的な存在価値をゼロと共有する。  ゼロからイチへ。 オフからオンへ。  無色から有色へ。 無形から有形へ。  僕は君の世界でイチになった。 自分を感じられるイチの世界。  君は君の世界でゼロになった。  相手に感じさせるゼロの世界。  僕らは「対」で共存している。 ここならば永遠に生きられる。  全ては君のプログラム通りに。 君が創る二進の世界は美しい。  . . . #螺旋階段#青空#日常を切り撮る#上を見る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#青#イチとゼロの創造力#対#二進#spiralstaircase#look_up#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshot#minimaltake#minimal#minimalism

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『イチとゼロの創造力』

イチを確立させるためにはゼロの存在が欠かせない。
イチはお互いの絶対的な存在価値をゼロと共有する。

ゼロからイチへ。
オフからオンへ。

無色から有色へ。
無形から有形へ。

僕は君の世界でイチになった。
自分を感じられるイチの世界。

君は君の世界でゼロになった。 
相手に感じさせるゼロの世界。

僕らは「対」で共存している。
ここならば永遠に生きられる。

全ては君のプログラム通りに。
君が創る二進の世界は美しい。 
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#螺旋階段#青空#日常を切り撮る#上を見る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#青#イチとゼロの創造力#対#二進#spiralstaircase#look_up#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshot#minimaltake#minimal#minimalism
370 5 3 months ago

... 『赤いマム』  アパートメントの前の石畳は、大小さまざまな美しい石が敷きつめられています。 その石畳が昔、エレベーターのように動き出したことがあったのです。 小さな石がエレベーターのボタンの役割でした。 ボタンを踏むと、大きな石が地下へ沈んでいったり、この窓の高さまで上昇してきたり、たくさんの石が上下している様は、まるで遊園地のようでした。  昔からいろんなことが起こる街ですが、この時ばかりは住民たちも驚きました。 私も途方に暮れてしまいました。 どこへ出かけるにも石畳を歩いて行かなければなりませんから。  そこで、通りを行き交う人たちを窓辺から観察することにしました。 しばらくすると、どの石を踏むとどの石が連動するのか、その法則性を見つけました。 私はさっそく夕食の買い出しに行くことにしました。  部屋のドアを出たところでお隣の方にお会いしましたので、エレベーターの法則性について、親切心からお伝えしたのです。 お隣の方はたいそう喜んでくださいました。 しかし、アパートメントから通りへ出た途端、お隣の方は石畳の小さな石を隈なく踏み歩き、上下しながら無邪気に楽しんでいらっしゃいました。  どんな状況でもその時を存分に楽しむ方なのだと、微笑ましく思ったのを覚えています。 私はどちらかといえば、平均的なしあわせを維持するために、時間やお金を貯金するタイプでしたから。 後日、お隣の方にそう話したところ、「お金は循環するが、時間は一方通行ですよ」とおっしゃっていたのが、大袈裟ですけれど私の人生観を変えたのです。 再び訪れることのない「今」を大事に生きている方でした。 少し難しい話になりましたね。  話を戻しましょう。 翌日、通りに面したキッチンの窓辺に、赤い小さなマムの花が置いてありました。 私の部屋は2階ですので、きっと誰かが石畳エレベーターを利用して置き忘れたのだと思いました。 でも、次の日も、その次の日も置いてあったのです。 それが1週間ほど続きましたので、不思議に思っていたところ、部屋のチャイムが鳴り、ドアを開けるとお隣の方が赤いマムの花束を持って立っているではありませんか。  「知ってるよ。その時グランマはプロポーズされたんでしょう?」 「それで石畳で結婚式をやったんだよね」 孫たちはこの話が大好きで、本当に楽しそうです。 「さあ、お茶にしましょう」 「きょうのケーキはなあに?」  グランパ私はしあわせですよ。  “ みんなが囲む食卓には赤いマムの花が飾られておりました ” . . . #赤いマム#マム#石畳#エレベーター#石畳エレベーター#床#壁#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#物語#読書#言葉#モノクロ#白黒写真#floor#wall#monochrome#monotone#bnw#minimalphotography#minimalshot#minimaltake#photo_minimal#minimal#minimalism

...
『赤いマム』

アパートメントの前の石畳は、大小さまざまな美しい石が敷きつめられています。
その石畳が昔、エレベーターのように動き出したことがあったのです。
小さな石がエレベーターのボタンの役割でした。
ボタンを踏むと、大きな石が地下へ沈んでいったり、この窓の高さまで上昇してきたり、たくさんの石が上下している様は、まるで遊園地のようでした。

昔からいろんなことが起こる街ですが、この時ばかりは住民たちも驚きました。
私も途方に暮れてしまいました。
どこへ出かけるにも石畳を歩いて行かなければなりませんから。

そこで、通りを行き交う人たちを窓辺から観察することにしました。
しばらくすると、どの石を踏むとどの石が連動するのか、その法則性を見つけました。
私はさっそく夕食の買い出しに行くことにしました。

部屋のドアを出たところでお隣の方にお会いしましたので、エレベーターの法則性について、親切心からお伝えしたのです。
お隣の方はたいそう喜んでくださいました。
しかし、アパートメントから通りへ出た途端、お隣の方は石畳の小さな石を隈なく踏み歩き、上下しながら無邪気に楽しんでいらっしゃいました。

どんな状況でもその時を存分に楽しむ方なのだと、微笑ましく思ったのを覚えています。
私はどちらかといえば、平均的なしあわせを維持するために、時間やお金を貯金するタイプでしたから。
後日、お隣の方にそう話したところ、「お金は循環するが、時間は一方通行ですよ」とおっしゃっていたのが、大袈裟ですけれど私の人生観を変えたのです。
再び訪れることのない「今」を大事に生きている方でした。
少し難しい話になりましたね。

話を戻しましょう。
翌日、通りに面したキッチンの窓辺に、赤い小さなマムの花が置いてありました。
私の部屋は2階ですので、きっと誰かが石畳エレベーターを利用して置き忘れたのだと思いました。
でも、次の日も、その次の日も置いてあったのです。
それが1週間ほど続きましたので、不思議に思っていたところ、部屋のチャイムが鳴り、ドアを開けるとお隣の方が赤いマムの花束を持って立っているではありませんか。

「知ってるよ。その時グランマはプロポーズされたんでしょう?」
「それで石畳で結婚式をやったんだよね」
孫たちはこの話が大好きで、本当に楽しそうです。
「さあ、お茶にしましょう」
「きょうのケーキはなあに?」

グランパ私はしあわせですよ。

“ みんなが囲む食卓には赤いマムの花が飾られておりました ”
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#赤いマム#マム#石畳#エレベーター#石畳エレベーター#床#壁#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#物語#読書#言葉#モノクロ#白黒写真#floor#wall#monochrome#monotone#bnw#minimalphotography#minimalshot#minimaltake#photo_minimal#minimal#minimalism
414 6 3 months ago

... 『カケラ拾い』  コトン。 先入観のカケラが欠け落ちた。  パリン。 嫉妬心のカケラが割れ落ちた。  ヒラリ。 自惚れのカケラが舞い落ちた。  ポタリ。 執着心のカケラが滴り落ちた。  私はこれらを拾う。 それが仕事だから。  そして、 コトンは裁断。 パリンは研磨。 ヒラリは洗浄。 ポタリは濾過。  私のことを変な人だと思わないでね。 これは夏休みのアルバイトで、「人が移動中に落とすカケラ」を拾って加工する仕事。 仕上がったものは雇い主である伯父に渡して任務完了。  始めた頃は「カケラが落ちる音」なんてちっとも聞こえなかったけれど、雑音を遮断して耳を澄ます感覚とでもいうのかな、そうするとだんだんカケラの音が聞こえてくるし、見えてもくる。 今わかるのはさっきの4個と、最近覚えた「フワリ」。 フワリは「愛情」のカケラが溢れ出て、舞い上がるときの音。 これを拾うとほんわか心が温まる。 でも安心してしまって眠くなるから、拾いすぎには注意が必要。 あと見た目がいくら綺麗でも判別できないカケラは拾わないよう、伯父にきつく言われております。  それでも間違えて拾ってしまうカケラや、加工後に出るカケラの一部だったものは、大事なものだから、伯父家の広い庭に埋めたり、撒いたり、つまりは土に還すのだけれど、そこに咲く花はどれも見事なのよね。 それに懐かしい感じがする。  ちなみに伯父の職業は画家。 趣味でエーアイとかいう研究もしていて、人の感情や行動に興味があるみたい。 私が庭に懐かしさを感じるのは、この庭から生まれたからかもしれないな、と伯父は大真面目な顔をして言ったけれど、すぐに嬉しそうに笑ってた。  フワリ。 フワリ。 . . . #青空#夏空#雲#植物#日常を切り撮る#上を見る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#青#ブルートーン#カケラ拾い#アルバイト#フワリ#カケラが落ちる音#bluesky#flashfiction#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshot#minimaltake#minimal#minimalism

...
『カケラ拾い』

コトン。
先入観のカケラが欠け落ちた。

パリン。
嫉妬心のカケラが割れ落ちた。

ヒラリ。
自惚れのカケラが舞い落ちた。

ポタリ。
執着心のカケラが滴り落ちた。

私はこれらを拾う。
それが仕事だから。

そして、
コトンは裁断。
パリンは研磨。
ヒラリは洗浄。
ポタリは濾過。

私のことを変な人だと思わないでね。
これは夏休みのアルバイトで、「人が移動中に落とすカケラ」を拾って加工する仕事。
仕上がったものは雇い主である伯父に渡して任務完了。

始めた頃は「カケラが落ちる音」なんてちっとも聞こえなかったけれど、雑音を遮断して耳を澄ます感覚とでもいうのかな、そうするとだんだんカケラの音が聞こえてくるし、見えてもくる。
今わかるのはさっきの4個と、最近覚えた「フワリ」。
フワリは「愛情」のカケラが溢れ出て、舞い上がるときの音。
これを拾うとほんわか心が温まる。
でも安心してしまって眠くなるから、拾いすぎには注意が必要。
あと見た目がいくら綺麗でも判別できないカケラは拾わないよう、伯父にきつく言われております。

それでも間違えて拾ってしまうカケラや、加工後に出るカケラの一部だったものは、大事なものだから、伯父家の広い庭に埋めたり、撒いたり、つまりは土に還すのだけれど、そこに咲く花はどれも見事なのよね。
それに懐かしい感じがする。

ちなみに伯父の職業は画家。
趣味でエーアイとかいう研究もしていて、人の感情や行動に興味があるみたい。
私が庭に懐かしさを感じるのは、この庭から生まれたからかもしれないな、と伯父は大真面目な顔をして言ったけれど、すぐに嬉しそうに笑ってた。

フワリ。
フワリ。
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#青空#夏空#雲#植物#日常を切り撮る#上を見る#想像する#写真と文章#言葉#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#青#ブルートーン#カケラ拾い#アルバイト#フワリ#カケラが落ちる音#bluesky#flashfiction#bluetones#minimalphotography#photo_minimal#minimalshot#minimaltake#minimal#minimalism
395 10 3 months ago

... 『祖父』  僕には尊敬する大好きな人がいる。 博識で話が面白く、ものづくりが得意な祖父だ。 ふさふさの白髪頭に黒縁メガネ、右頬に濃いシミがあり、白衣を着せたらたぶん科学者のような風体になるだろう。  その祖父から子どもの頃に聞いた奇妙な話が、その後の僕の人生を左右した。  「解体されたすべての建物が無くなるわけではない。違う世界へ移動するための解体もある。次の世界へとの係わり。大事なものは継がれてゆく」のだと。  この話を聞いてから数ヵ月後、祖父の家が解体されることになった。 当時小学生だった僕は、祖父がいなくなるような気がして、両親に泣きながら祖父の家を壊さないよう必死に頼んだ記憶がある。 けれど、よく聞けば、祖父は僕らと一緒に住むために、土地と家を処分したという話だった。 そんなこともあり、この祖父の話は鮮明に覚えている。  それから25年、僕は34歳になり、勤めていた建設会社を辞め、「特別解体専門業務」を行う会社を立ち上げた。 「特別解体工法」により解体を行い、違う世界への移動を可能にするものだ。 詳しいことは企業秘密だが、パリッとアイロンをかけたような養生シートで丁寧に覆われている現場は、たぶん僕の会社か同業者だろう。  今日は久しぶりの休みで、祖父と一緒に、来週うちに来る子犬のための小屋を作った。 白黒の子犬で、白い顔に大きな黒の斑があり、大きくなるとふさふさの毛で覆われる犬種らしい。  「動物も違う世界から来るのかな」 「そうだな。願う人がいれば、あるだろう」  「わしはお前たちのいるこの世界が好きで、一度見送ったからな」  そうか、祖父は60歳の時に自宅を解体したのだ。 僕は急に胸が一杯になって、すぐに返事ができなかった。  「じいちゃん、犬の名前は何にしようか?」  「そうだな…」とだけ言い、じいちゃんは顔をしわくちゃにして眩しそうに僕を見上げ、出来上がった犬小屋の屋根をトン、トン、と叩いた。 . . . #壁#外壁#メーターボックス#分電盤#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真#祖父#解体工事#特別解体専門業務#wall#distributionboard#pattern#monochrome#monotone#bnw#minimalphotography#minimalshot#minimaltake#photo_minimal#minimal#minimalism

...
『祖父』

僕には尊敬する大好きな人がいる。
博識で話が面白く、ものづくりが得意な祖父だ。
ふさふさの白髪頭に黒縁メガネ、右頬に濃いシミがあり、白衣を着せたらたぶん科学者のような風体になるだろう。

その祖父から子どもの頃に聞いた奇妙な話が、その後の僕の人生を左右した。

「解体されたすべての建物が無くなるわけではない。違う世界へ移動するための解体もある。次の世界へとの係わり。大事なものは継がれてゆく」のだと。

この話を聞いてから数ヵ月後、祖父の家が解体されることになった。
当時小学生だった僕は、祖父がいなくなるような気がして、両親に泣きながら祖父の家を壊さないよう必死に頼んだ記憶がある。
けれど、よく聞けば、祖父は僕らと一緒に住むために、土地と家を処分したという話だった。
そんなこともあり、この祖父の話は鮮明に覚えている。

それから25年、僕は34歳になり、勤めていた建設会社を辞め、「特別解体専門業務」を行う会社を立ち上げた。
「特別解体工法」により解体を行い、違う世界への移動を可能にするものだ。
詳しいことは企業秘密だが、パリッとアイロンをかけたような養生シートで丁寧に覆われている現場は、たぶん僕の会社か同業者だろう。

今日は久しぶりの休みで、祖父と一緒に、来週うちに来る子犬のための小屋を作った。
白黒の子犬で、白い顔に大きな黒の斑があり、大きくなるとふさふさの毛で覆われる犬種らしい。

「動物も違う世界から来るのかな」
「そうだな。願う人がいれば、あるだろう」 
「わしはお前たちのいるこの世界が好きで、一度見送ったからな」

そうか、祖父は60歳の時に自宅を解体したのだ。
僕は急に胸が一杯になって、すぐに返事ができなかった。

「じいちゃん、犬の名前は何にしようか?」

「そうだな…」とだけ言い、じいちゃんは顔をしわくちゃにして眩しそうに僕を見上げ、出来上がった犬小屋の屋根をトン、トン、と叩いた。
.
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#壁#外壁#メーターボックス#分電盤#日常を切り撮る#想像する#写真と文章#掌編#掌編小説#小説#詩#読書#言葉#モノクロ#白黒写真#祖父#解体工事#特別解体専門業務#wall#distributionboard#pattern#monochrome#monotone#bnw#minimalphotography#minimalshot#minimaltake#photo_minimal#minimal#minimalism
463 10 3 months ago